最高裁判所第三小法廷 昭和54年(オ)226号 判決 1982年9月28日
上告人
甲田春子
右訴訟代理人
阪本政敬
川崎裕子
北尻得五郎
松本晶行
池上健治
布谷武治郎
被上告人
甲田一夫
被上告人
甲田秋子
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人阪本政敬、同川崎裕子、同北尻得五郎、同松本晶行、同池上健治、同布谷武治郎の上告理由について
重婚の場合において、後婚が離婚によつて解消されたときは、特段の事情のない限り、後婚が重婚にあたることを理由としてその取消を請求することは許されないものと解するのが相当である。けだし、婚姻取消は離婚の効果に準ずるのであるから(民法七四八条、七四九条)、離婚後、なお婚姻の取消を請求することは、特段の事情がある場合のほか、法律上その利益がないものというべきだからである。
これを本件についてみるのに、原審の適法に確定したところによれば、上告人の被上告人甲田一夫の前婚についての協議離婚が無効とされた結果、右協議離婚届出後にされた被上告人甲田一夫と同甲田秋子間の後婚が被上告人甲田一夫につき前婚との関係で重婚となるに至つたものの、前婚の配偶者である上告人が右重婚を理由に提起した後婚の取消を求める本訴の係属中に右後婚が離婚によつて解消されたというのであるから、他に特段の事情について主張立証のない本件においては、重婚を理由として後婚の取消を求めることはもはや許されないものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は結論において正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(木戸口久治 横井大三 伊藤正己 寺田治郎)
上告代理人阪本政敬、同川崎裕子、同北尻得五郎、同松本晶行、同池上健治、同布谷武治郎の上告理由
一、原判決は法令違反の不法がある。
原審は「民法七四八条一項によると婚姻取消の効果は将来に向かつて生ずるにとどまるので、後婚が離婚によりすでに解消しているときは取消を請求する利益はないものと解すべきである」とし、上告人の被上告人両名に対する婚姻取消の訴を却下している。
しかしながら、大阪家庭裁判所堺支部昭和五二年一月一四日審判は、後婚についてすでに離婚がなされていても取消の利益が存する旨判断しており、右判断が正当であると思料する。
二、婚姻取消と離婚とは、一般的にはともに将来に向つて婚姻を解消するものであり、(後述するように財産上の効果については一定の限度において遡及する)その限りでは共通点を有するが、離婚が完全有効な婚姻の成立を前提とするものであるのに対し、婚姻取消は、不完全に成立した婚姻の成立過程の瑕疵をとがめようとするものである。
右点において両者はその持つ社会的意味が全く異なる。
三、効果の点においても両者は財産関係で顕著な差異がある(民法七四八条二項、三項)。右点は、とくに重婚を理由とする婚姻の取消の場合には、前婚の配偶者と後婚の配偶者との間の衡平を保つ上から重要である。すなわち後婚の配偶者には、後婚によつて取得した財産を一旦返還させ、財産分与にあたつては、前婚の配偶者の存在をも考慮に入れてその額等を決するのが、双方の衡平に合うものといえる。
四、本件において被上告人甲田一夫と同甲田秋子との協議離婚は、第一審判決後に、婚姻の取消を免れるためになされた仮装離婚である。両者の婚姻共同生活関係は、協議離婚後も全く変化がない。しかしながら、被上告人甲田一夫は、同甲田秋子と通謀し、上告人から一夫所有財産を隠匿するため、秋子に財産分与等として、所有財産を譲渡している。右行為は、上告人の利益を害することはなはだしいものがある。
五、また条文上、(七四四条、七四五条、七四六条、七四七条)不適齢婚等については取消請求について種々の制限があるが、重婚による婚姻の取消請求は、検察官以外の取消権者について、その行使に何らの制限がない。
六、以上の理由により原判決は民法七四四条二項、七三二条に違背し、右違背は判決に影響を及ぼすこと明らかであると思料する。